7th.Heaven .8

2018.08.21 (Tue)


*YH


予想していた光景だった───

今の自分たちが置かれている状況と同じように。
この場にいるマスコミやファンによって、引き離されそうになるその手を躊躇いもなく掴んだ。

「チャンミナ。大丈夫か?」

返事の変わりに小さく頷くのを確認して、ふっと詰めてた息を吐き出した。
空港は色々な思いが交差するところで、感傷的になりやすいからあまり好きじゃない。
感性の強いチャンミンならなおさら感じるものが強いと思うから。
早くこの状況から脱したかった。

「凄かったな。ユノ、大丈夫か?」
「ああ。」

セキュリティチェックを受け出国審査を済ますと、嘘みたいに静かになった。
マスコミも入って来れないし、ファンにカメラを向けられることもない。

「飲み物買って来てやるから、座ってろ。」
「ありがとう、マネヒョン。」

気が張ってたのか俺もチャンミンもマネヒョンの後ろ姿を見つめながら突っ立ったままで。
我に返って、もう一度チャンミンのその細い腕を取り並んで近くの椅子に腰を下ろした。
抵抗するでもなく、されるがままのチャンミンを見ていると無性に抱きしめたい衝動に駆られる。
酷くいじらしくて、堪らなくて。

勿論それは叶うはずもないのだけれど。

チャンミンは───

何も言わない。

いつの間にかかけられたサングラスの奥にある表情を読み取る事は出来なくて。
ただただ真っすぐ前を向いたまま、行き交う空港の人の流れを見ていた。

昔から変わっていない。
控えめで余計な事を言わない。
今も、本当はこの状況に色々と聞きたい事があるはずなのに何一つ俺に尋ねて来ようとはしない。
それは有難くもあり、少しだけ寂しい気もする。
もう少し若かった頃は、自分に興味がないんじゃないかと腹を立てたこともあった。

だけど、チャンミンが聞いて来ない限り自分から話すつもりもない。

そもそも後ろめたい事など何一つないのだから───

「…日本、また忙しいんだろうな。」

あえてこの状況を切り替えるような言葉をかけた。

「そうですね、ツアーの為にも色々詰めないとですよね…。気が抜けない。」

意外にも普通にチャンミンから返事が返って来た。
今だその表情を読めないけれど、言葉を返してくれただけで嬉しくなる。

「ってか、今日から日本でまた一緒のうちじゃん?」
「ですね。」
「今夜、何か作ってよチャンミナ。」
「えー、僕がですか?」
「そう、お前が作ったの食べたいし。」
「…いいですよ。大したもの作れないけど。もし打ち合わせとか入ったらダメですけど…」
「その時は明日でもいい。しばらく一緒にいれる。」
「…分かり、ました。」

チャンミン、今どんな顔してるんだろうな。

そう思った瞬間に手が動いて、思わずチャンミンのサングラスを外した。

「っちょ、なにするんですか…」

その表情は。
いいような悪いような曖昧な感じで。
慌ててサングラスを取り返そうとじたばたするその手を掴んで。

「キス、したい。」

思わず思ったことが口を付いて出てしまった。

「ちょ、」

あ、目がデッカくなった───

可愛い

どんな表情1つ取ってみても新鮮で、自分の大切な人なんだと世界中に叫びたいくらいだ。

「…っと、馬鹿じゃないですか!なに言って…」
「ふっ。だよなー、無理だよなー。」
「当たり前でしょうが!」

いくら俺でもそこら辺は弁えてるよ。
いい大人だし。
それも分かっててそんな風に真剣にムキになる辺り…

本当に可愛くて堪らない───

どれくらい触れてないんだろうな。

最近、色々重なって気持ちの微妙なズレが生じて。
しかも今は、俺は誰かと熱愛中。

思わず溜息が零れた。

「っ、だって、こんなとこで…」
「あ?…あぁ〜…うん、無理だよな。心配すんな。」
「別に、心配なんかしてないですし。」

今の溜息は、俺の置かれてる状況に対してであって。
チャンミンに触れられないことにじゃない。
それを自分の真面目な性格が…とか、一瞬で自分を責めたらしい。

「お前は、マジ可愛いよ。」
「…なんですか、急に。」
「急じゃないし、いつも思ってるし。」
「はいはい…。」

だからさ。

俺はやっぱり、

俺は間違ってないよ、チャンミン。

「ずっと俺の傍にいてくれな、チャンミン。」

お前がいてくれるなら、なんて事ない。
うだうだ言いながらでも、俺の手を掴んでてくれるなら出来ない事なんてないから。

間違ってない───

「…今の状態で、それ言うとか…」
「ああ。でも、放す気はない───」

絶対に。

そして。

あたかもこの瞬間を見計らったように鳴り出す電話。

誰からかは何となく予想出来て。
少しだけ浮ついて気分が良かったのに、音を聞いた瞬間鉛みたいに身体が重くなる感じがした。

「…電話。鳴ってますよ?」
「ああ。」

電話が鳴った瞬間ぴくりと小さく反応したチャンミンの形のいい丸い頭を軽く撫でて、

電話に出た───。










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