Signal .10

2018.11.15 (Thu)
僕は知ってしまった

傍にいることの

本当の意味を


Signal .10


C
久しぶりに会って会話が弾む予定だった。
あまり口数の多くない自分を、いつも彼女が楽しい話題を提供してくれ笑わせてくれたから。
多分、今もまさにそんな状況なのだと思う。
雰囲気の良い店と彼女の楽しい話と。

それなのに自分の心はまるでここにはないかのように、話を楽しいとも思えずどこかうわの空で聞いていた。

「ね、チャンミン!」
「え?あ、どうしたの。」
「どうしたの。じゃないでしょ!何かボーッとしてるけど、私の話聞いてた?」
「…ごめん。何だっけ。」
「もう。」

少し前までなら″可愛い″と思えていた拗ねた表情も、今は1ミリも自分に響いて来ない。
それよりも、さっきのヒョンとのやり取りの方が気になって仕方がないのだ。
そう気付いた瞬間、彼女に自分の気持ちはないんだと確信してしまった。

「何かつまんなそう。」
「そんな事ないよ。」
「チャンミン、あんまり食べてないし。」
「…食べてるよ。」

さっきのヒョンとのやり取り───

あまりにも淡々と、僕が傍にいなくてもいいと言われた気がした。

『あ、そうなの。じゃ、しょうがないよね。』

それは普段の言葉で、特にヒョンにとっては意味はなかったんだと思う。
つまり問題はそれを、「特別でない」と思う自分。
置いて行かれたような気分になった現実───

「あー、もう!」
「どうしたの、チャンミン?」
「ごめん、今からユノヒョン達のとこに行く。」
「え、何で。」
「理由は分かるような分からないような…。で、一緒に行く?」

この際、別に1人で行ったっていいと思った。
申し訳ないが、彼女と過ごす時間にあまり意味を感じられない。
人の気持ちが冷める時ってこんななんだと、改めて実感する。
彼女の返事を頭のどこかで聞きながら、ヒョンに電話をかけた。

呼び出しのコールが鳴る。

焦れったくも何だか怖い時間──

『もしもし。』

ヒョンの声。
まずは出てくれた事にホッとして、小さい溜息が無意識に零れる。
もしかしたら、電話に出るのも拒否られるんじゃないかとそんなことまで頭を過ぎっていたから。

「あ、…ヒョン。」
『うん、どした。』

なるべく平常心で普段と変わらないテンションで。

「あの。」
『ん?』
「僕と、あの…彼女も一緒にそっちに合流してもいいですか?」
『は?』
「…ダメですか?」
『いや、ダメって事はないけどね。お前は彼女と2人の方がいいんじゃねぇの?』

どうして決めつけるんだろう。
彼女とは何もないと傍にいて誰より分かってるくせに。
やっぱりそんなに僕と距離を取りたいんだろうか。

「勝手に、そう思わないでください。」

胸の奥であの痛みが燻ぶる。

『え。』
「…僕だって、そっちに行きたかったかも知れないとは思わないんですか?」
『いや、あのね、チャンミナ。』
「彼女が一緒に居たかもしれないけど、同じ事務所の子なんだし。一緒に誘ってくれても良かったじゃないですか。」

そう思えば思うほど、相手を責めるような口調になってしまう。
こんな風に言いたい訳じゃないのに。

『…じゃあ、来るか?後輩いるけど。』
「分かってますよ。…今から行くんで、場所教えて下さい。」

とにかく、凄く。
ヒョンの傍に行きたかった───

「ねぇ、あのさ。私の意見とか聞いてくれないの。」
「…だから、聞いたよ。行く?って。」
「聞いてくれたかも知れないけど、それって”行く”って決めた上での事だったでしょ。…私が行きたくないって言ったらどうするの?」

こういう駄々は今の僕にとって苛立たせる材料にしかならない。
それが相手にも伝わってしまったんだろうか、それ以上何も言おうとしない彼女に無言で自分の意見が揺るがない事を伝える。
来たかったら来ればいいし、嫌だったらここでお開きだ。

マネージャーに電話をかけた。
彼女と店にいる事は隠す事でもないから話してあった。

『おう、どうしたチャンミナ。』
「あの、今からユノヒョンのところに行きたいんです。」
『あ?ユノのところに?お前行きたくないんじゃなかったのか。』
「…マネヒョンまでユノヒョンと同じ事言うんですね。とにかく、僕はあっちに行きたいので。彼女もいますが、一緒に連れてって貰えませんか。」
『あー、…分かったよ。すぐ迎えに行くから、まだ店から出るなよ。着いたら電話する。』

どうしてか分からない。
この分からないと言うのは何かから逃げてる理由でしかないのかも知れないと、それはリアルに分かっている。
この焦りにも似た感覚。

ただ、ヒョンの傍に自分がいない事が嫌で仕方ない───


---


「あー、チャミニヒョンだ!」

店に着くと真っ先に飛びついて来たのは、後輩として特に可愛がっているシウミンだった。
自分たちも忙しいのに、僕らが日本でのライブの時などわざわざ見に来てくれたりもする。
他の後輩達も可愛いとは思うが、やっぱり懐いてくれてる子は気持ちの入り方が違う。
恐らくテミンを可愛がるユノヒョンの気持ちもこんななんだろうなと、分かるような気がした。

「さっき来てくれないから、ちょっとだけ寂しかったです。」
「ん?ごめんごめん。でも、こうやって来たから許してよ。」
「はぁい。…あ、お姉さんお疲れ様です。」

僕にじゃれながら隣にいる彼女に挨拶をする。
そこは先輩後輩の縦の序列が厳しい世界だから、誰も手を抜いたりはしない。
そんな2人を見ながら、彼女の傍を離れするりとユノヒョンの隣に座った。
僕が入って来た時点で気を利かせてくれたのか、後輩が席を空けてくれたのだ。
そこで謙遜する理由もないので、有難く好意に乗っかる。

ヒョンはと言うと、僕らが着いてから隣に座るまで一切僕の事を見ようともしなかった。
ぎりっと強い痛みが走る胸元を押さえながら、気付いてないフリをして話しかける。

「楽しそうですね。」
「ん?あぁ、何かみんな忙しいからね。たまには羽目も外したいんだろ。」
「ヒョンは?楽しんでます?」
「何で?」
「何となく。」
「そ。」
「それ、何飲んでるんですか?」
「あー、何だっけな。」

少しだけヒョンの顔が赤い。
別に弱い訳ではないのに、こうしてすぐ顔に出るから誤解されやすい。

「じゃあ、僕もヒョンと同じのにします。」
「うん。」
「あ、僕が注文しますよ。お姉さんは何にしますか?」
「あ、じゃあチャンミンと同じので。」
「了解です。」

シウミンが気を利かせて注文してくれた。
彼女は僕らの前に座り、隣の後輩達と話し始めた。

「彼女、いいのか。」
「え。」
「本当は2人が良かったんじゃねぇの。」

ああ、まただ。
どうしてこんなに距離を置こうとするんだろう。

胸の疼きが酷くなる。

「…僕は、2人よりこっちの方が良かったから来たんです。」
「そう。」
「逆に。僕らが来ない方が良かったんですか。」
「え、なに。」
「来て欲しくないみたいにしか聞こえないから。」
「んな訳ねぇじゃん。」

なのに、
どうしてこの人は僕を見ようとしないんだろう。

さっきから「どうして」って疑問符ばかりしか浮かんで来ない。

何だか泣きたくなって来る。

焦ってみたり、泣きたくなったり、苦しくなったり、でも嬉しかったり。
ここのところ、感情のコントロールが上手く行ってない。
食欲がないのも、精神的なものが関わってると自分では分かっているがどうする事も出来ないし、ましてやユノヒョンに話す訳にもいかない。

「ユノヒョン!」
「テミナ、どうした。」

今まで少し離れたところにいたテミンがユノのもう片方の隣に座った。

「あ、チャミニヒョンお疲れ様です。」
「うん、お疲れ。」

いつ見ても可愛い。
金色のさらさらの髪が揺れて、笑顔なんて本当に天使なんじゃないかって思う。
それなのに、ダンスを躍らせればうちの事務所の3本の指に入るほどの上手さだ。
僕はどちらも実際、この後輩には敵わない。
その引け目みたいなものが余計に、今の自分に重くのしかかった。

「お姉さんも、お疲れ様です。」
「テミナ久しぶりね。相変わらず可愛い。」
「そんな事言ってくれるのお姉さんとユノヒョンくらいですよ。」
「そんな事ないだろ。」
「そんな事ありますよ、ユノヒョンの目がおかしいんですよ。」
「おかしくねぇよ、ごく正論。てか、ちゃんと食べろよ。あんまり食べてないだろ。」
「ちゃんと食べてますよ!痩せてるけど人よりたくさん食べます。」
「ユノオッパ、何かテミンの保護者みたいになってます。」
「あぁ?そうかな。」
「そうですよ、心配性の。」

ユノヒョンはやっぱり僕を見ようともしない。
隣にいても、誰よりも遠くに感じる。

僕がどう思ってるかを気にすることもしない。

テミンのそれには誰より早く気付くくせに、僕が食欲がない事にも気付いてない。

当たり前か───



今、分かった気がした。



キスされた理由が。



どうしても一緒には住みたくない、つまり僕はヒョンの重荷でしかなかった───



「はは。」



そんな駄々っ子みたいに自分はユノヒョンに映っていたんだ。
キスするようなことまでしなきゃ、僕が諦めないと。


それなのに僕はどうしてもヒョンの傍に居たいと思って必死だった。

後輩達に優しくするヒョンを見て胸が痛んだし、自分の方を見てくれない事が悔しくて堪らなかった。


やっと分かった、痛みのその理由が。





僕はユノヒョンが好きだ───





「弟」としてでなく、「メンバー」としてでもない。





ただ1人の人間として。





だから、その隣を視線を温もりを優しさを全てを───





渡したくなかった。




「っ。」




気分が悪い。

胸の疼きは今までで一番の痛みへと変わる。

来なきゃ良かった。
ヒョンに拒絶されている事に気付こうともしないで。
自分の情けなさに涙が込み上げて来る。



「すみません、っ…ちょっとトイレに…」



傍にいる事の本当の意味に気付いたのに───



to next.


---

お、おかしいな。
ユノが悩むはずだったのに、チャンミンも結構な勢いで…
「彼女」はあえて名前を出しませんので、どなたかに当てはめて妄想お願いします←丸投げ


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