Signal .7

2018.11.08 (Thu)
振り回される

苦しくて、どこか甘い───


Signal .7


Y
『行かないで下さい』
『ヒョンの隣には僕が居たい』

そう言われ、掴まれた腕を振り払えなかった。
分かってはいたが、自分はどこまででもチャンミンには甘い。
あんな風に涙目で訴えられて、突き放せるはずがなかった。

は、建前で。

───単純に嬉しかったんだ。

「はぁ。」
「溜息が深いな。」

テーブルに突っ伏しながら思わず大きな溜息が零れた。
慣れた手つきで、物が落ちないようにテーブルの上の料理をシウォンが避ける。

「シウォナ…」
「んな情けない声出してんじゃねぇよ。」
「そんな声出してない。」

チャンミンの前だと、ポーカーフェイスが見事に崩れて行く。
「兄」らしく、「メンバー」らしく。
そう振る舞おうとする努力は、チャンミンには通用しない。

「どうしたらいいか分からなくなって来る。」
「素直に言ってみたら。」
「何を。チャンミンが好きなんだって?」
「そうそう。」

どうにかなりそうだ───

衝動のままに傷つけなくないから、距離を置く決意をしたはずが。
遠ざけたい相手から近づいて来る。

「いや、それは無理。」
「何でだよ。」
「チャンミンは優しいから。そんな気もねぇのに、俺のこと考えて悩まなくていいとこで悩むことになる。」
「じゃあ、お前はそれでいいの。」

こんな会話、何回目だろう。
全然先が見えず、同じ場所に止まったままの感覚。
進むことも戻ることも出来ない。

「いっそ、言ってしまえば?」

エキゾチックな顔の作りのイケメンな友人は、ありとあらゆる所から切り込んでくる。
自分と同じように「何もしないで悩むより行動してから悩め」のタイプであるが故だ。
普段の自分なら何も考えずにそうしていた。
ただ、今回は他でもないチャンミンだ。

「言って?玉砕するのは覚悟してるけど、その後は?俺達はずっとメンバーとしてやってかなきゃいけない。それなのに変に気を使われたりしたら、それこそどうしていいか分からなくなる。」
「はぁ。本当にね、天下のユノちゃんがこんなに悩んじゃって。」
「ユノちゃんて、なんだよ。」
「どうしてかねぇ。ただ好きって言うだけなのに、そんな難しい事なんかな。」
「難しすぎるだろ。…俺らの場合は、特に。」
「そう?好きは好き、触れたいものは触れたい。そんなの自然の摂理だろうよ。」
「…それに反する想いだっつーの、俺のは。」
「はぁ…もう、どうしたもんかね。」
「それに。」
「それに?」

最近、やたらとチャンミンが俺に干渉して来る。
最初は気のせいかと、自分の勝手な思い込みだと思っていた。
でも、どうやらそれは思い込みではない───気がする。

「チャンミンが、…何か俺を束縛したがってるっつーか。」
「おぉお?それっていい傾向なんじぇねぇの?なんだよ、それ。」
「いや、外に出てると毎回電話かかって来て「どこにいるか」「誰といるか」聞かれるんだよ。」
「へぇ…。」
「いい傾向って言うより、逆なんじゃないかと思ったりもする。」
「逆?」
「アイツがいつも言うんだけど、俺がチャンミンを置いて行くんじゃないかって…。そういう恐怖心からそうなってんだったら、やっぱりいい傾向ではないだろ。」
「うーん…」

自分の欲を隠したくて逃げたいだけなのに。

それがまたチャンミンを傷つけてるのだとしたら───

置いて行く

この言葉はチャンミンの中のトラウマなのかも知れない。
分かりやすいものではなくても、何かある時にふと顔を出してしまう潜在的な存在。
俺が出て行くと言いさえしなければ、チャンミンはそんな気持ちを思い出すことさえなかったのかも知れない。

正解が見えない

そもそも、正解なんてあるんだろうか

「はぁ。」
「また、溜息かよ。」
「しょうがないだろ。お前の前でだけなんだから許せよ。」
「まぁ、他のとこでそういうの見せない方がいいな。」
「あ?」
「チャンミンがまた悲しみそうな気がする。」
「それ、どういう意味…」

話の途中でテーブルに置いていたスマホが振動して、着信を知らせた。

「あ、チャンミンだ。もしもし?」
「おい、シウォナ!」

俺が躊躇してる間に、シウォンがスマホを取りさっさと電話に出た。

「俺のチャンミナ?あ?あはは。そうだよ、ユノと飲んでるんだ。可愛いチャンミンからだったから俺が先に喋ろうと思って。ん?おお、傍にいるよ。代わる?うん、分かった。たまにはヒョンとも飲もうな。相手してくれないと拗ねるぞ。ああ、うんうん。ははは、分かった分かった。じゃあ、ユノに代わるね。…はい、チャンミンから。」

そう言って手渡されたスマホ。
受け取るのを一瞬迷う。
そんな俺にシウォンがスマホを押し付けて来ながら、「ちょっとトイレ」と席を立った。
一瞬俺に振り返り、ウィンクまで残して。

「はー、何だよ、もう…」
『…ヒョン?電話、しちゃダメでしたか?』
「え?ああ、いやこっちの話。ごめん、どうした?」
『何かある訳じゃないんですけど、誰と一緒なのかなぁと思って。そしたら、シウォニヒョンが出たので…アッサリ解決しちゃいました。』

ああ、何かもはや苛立ってさえ来る。

どうしたらいいと悩むのは自分の勝手だ。
それなのに、何で、どうしてとつい相手にも同じことを強要したくなる。

何も知らない真っ新な人を濁った感情で汚したくなくて必死なのに───

「ほんと、もう…勘弁して欲しい。」
『え?…何ですか。』
「何でもない。もう誰といるか分かったんだろ、だったら切るからな。」
『っ、あ、ヒョン!あの、』
「なに。」
『今夜、…帰って来ますよね?』

どこまでもどこまでも純粋すぎて。

その真っ白さに色を付けるのはやっぱり俺じゃダメだ───

「…早めに帰るから。」
『はい…。』


---


結局、散々シウォンに「チャンミンには甘い」と管を巻かれて。
それを何とかやり過ごして宿舎に戻って来た。

セキュリティを解除して玄関に入ると、きちんと整頓されたチャンミンの靴が目に入る。
この几帳面さは幾つになっても変わらない。
明日の朝、文句言われるのが癪だ。自分もそれに倣い揃えて上がった。
なるべくスリッパの音をさせないように、チャンミンの部屋の前を通りリビングへ入る。

「っ。」
「あ、おかえりなさい…ヒョン。」

とっくに寝てるだろうと思っていたのに、チャンミンは起きていた。
そして、俺の姿を見てどこか安堵したようにほっと溜息を付いたのが分かった。

「…ちゃんと帰って来るって言っただろ。寝てて良かったのに。」
「小説読んでたら夢中になってて…」
「そう。」

何だか棘っぽくなってしまった俺からの言葉に、チャンミンが少し表情を落とした気がした。

「っ。」

泣きたくなるのはこっちの方だ

シャワーを浴びたんだろう。
トレーナーにハーフパンツと言う格好は、今の自分にはあまりにも無防備すぎる。
最近のチャンミンは「可愛さ」に「美しさ」が加わった。
周りはユノの傍にいるからだと冗談を言うが、それは自分にとって深刻だ。笑えない。

「じゃあ、シャワー浴びて来る。」

頼むから俺に近づかないでくれ

「あの、ヒョン!えっと…」

パンツから延びる細い脚
長めの髪を耳に掻き上げる仕草
少しだけ潤んだ大きな目
俺の名前を呼ぶ可愛らしい口元

眩暈と一緒に、身体の芯が重くなる感覚がする。

────マズイ

自分の中で警鐘が鳴る。

「早く、…寝ろよ。明日も忙しいから。」

俺に近づかないでくれ

「ヒョン。具合悪いんですか?」
「…違うから。」
「でも、何か…」










無防備に近づいて来る










────欲しくて堪らない相手










「ユノ、───…っ」










その唇が「ヒョン」と呼ぶ前に。

その唇が「ユノ」と呼んだから。










堪らずその細い身体を掻き抱き、噛みつくみたいに塞いだ。









離したくない

欲しい









俺の背中を叩く音

離れる唇

今にも零れそうな涙










一番欲しくて堪らない相手を汚した

────自分のこの手で。










ごめん、チャンミナ。






to next.


---

ランキングに参加してます。応援のポチっとお願いします☆

にほんブログ村
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top