7th.Heaven .22

2018.09.21 (Fri)

*CM


ユノから発した言葉を理解するのに、猶に1分は要したと思う。

「───え。」

お互いそれぞれファンクラブとは違う大きなファンダムを持っている。
このマスターと呼ばれる彼女たちは、いつでも僕らの行くところに姿を現してくれて。
僕らの写真を撮り続けてくれている。
そう、あの苦しかった日々も含めずっと───

「そういうこと。」

恥ずかしい時の癖。
頭を指で掻きながらユノが答えた。

「って、えぇ?ファンダムって…あの、」
「そうだよ。俺らをずっと追いかけて来てくれてる、あの。」
「は?えっと、何でそのマスターが…」
「うん。そうだよな。何でって思うよな。」
「予想外のところから話が飛び込んできて、…正直驚きました。」
「あ、そう?もっと別の話と思ってたのか?」
「…まぁ。」
「どんな?」

どんなって、そんな真顔で聞かれても困る。

正直、今夜は本当の”別れ”を覚悟した───

なのに僕を迎えに来たユノは、まるでこれからそうするようには見えなくて。

だから、混乱した。

何と言えばいいのかも正直迷った。
自分が言葉にすることで、もしかしたらまたユノを窮地に立たせることになるかもしれない。
それだけはどうしても避けたかった。
この人が、汚い言葉で汚されるのだけはどうしても我慢出来ない。
そうならない為なら、自分が我慢することくらい何てことないと本気で思えた。

それくらい、僕は貴方を想っている───

「正直、別れを言われるのかと…」
「俺がお前に?別れようって?」
「…はい。」
「お前だろ、そう言ったの。」
「え?」
「俺と別れるって、あの日。日本で…」
「あ。」

そうだ。
電話で話したあの日も、ちゃんと話し合うつもりだった。
それなのにユノは僕ではなく彼女のもとへ行った───
言えないこともある、そう言ったユノの言葉を裏切るように。
そうするのなら”別れる”と確かに、言った。

「あれは、結構キたけどな。」
「ユノ、あれは…」
「でも、そう言われて。正直、傷つきはしたけど腹が立った。何言ってんだ、って。」
「…すみません。」
「で?お前は俺と別れたい訳?」

両手で頬を捕まれ身動き取れない。
目の前には、何度見ても全く見飽きることのない綺麗な顔をした人がいる。

そんなユノの真っ黒な、宝石みたいな目を見ながら思う。
僕は、ユノの事を本当に考えていたんだろうか。
何が真実か分からなくなって、その見えないものを何とか探そうとしたんだろうか。

ユノにばかり声を挙げさせている気がする。

それなのに、そんなユノが”言いたいけど言えない”そう言った意味を知らなければならなかったのに。

いくら自分が成長して、貴方と2人で並んで歩いて行きたいと言っても。
こんな未熟な自分では、きっと無理───

でもらそれを口にすると、ユノは困った顔をするに違いない。

「…ごめんなさい。」

ユノが一人で苦しんでる間、僕は何も出来なかった───

「ああ?何にごめん?別れるってことか?」
「違います!」
「じゃあ、何にだよ?」
「…色々です。」
「色々?って、何かこの会話何処かで聞いたことあるな。」
「っ、ホントだ…。」

ユノが笑う。
それにつられて僕も笑った───














「ユノは。一番自分が大事にしてる人たちに、…僕の話をしてくれたんですね。」













それが何を意味するのか。
「冒険」と言うにはあまりにも危険な行為。

下手をしたら全てがなくなる───

そんな薄氷の上を一人で歩かせていたなんて、それを知らなかったなんて。

何て貴方に言葉をかければいいんだろう。











「それが俺なりの筋だと思ったから。…どっちも大事で、どっちかは選べない。」










ユノと彼女がSNS上に上がったのは偶然で。
でも結果、それが2人試されることへの拍車に変わった。

あの時”諦めない”と言ったのは、彼女の事ではなく。

───僕らの関係の事だった。

誰に何も言うでもなく、当人同士だけで盛り上がって恋愛が公開される場合がほとんどで。
それがきっかけで、大きなファンダムが幾つも閉鎖されてしまったアーティストがいるのも事実だ。
ファンとしての置いてけぼり感は、きっと計り知れないものだろうと簡単に予想出来た。

そんな思いをさせている当人が何を言っても許されないのは分かっている。
勿論、これが正解だとは思わない。
これによって傷つく人間がいるのは間違いない。

でも、僕は。

自分自身の口で伝える

そのことに、ユノの今までの全てが込められている気がした───

どこまで僕は貴方を好きになれが気が済むんだろう。

「…ほんっとうに、そういう格好いいことやるから、誰彼アンタを好きになるんでしょうが。」
「は?何だそれ。」
「無自覚だ、マジ…」
「───あ!」

ユノが突然大きな声を出して、さっき放り投げたスマホを手にした。

「…は?」

勘の鋭さを今日ばかりは恨みたい。

その瞬間、一瞬で血の気が引いた。

「───え…」
「通話したままだった。」
「っちょ!何やってんですか!馬鹿!どうすんですか、こんなの聞かれて!また相手が傷つく…っ…」

どうやっても傷つけるには違いない。
どうやっても悲しませることには変わりない。

でも、出来ることならそれを少なくしたい。
それは、こっち側にいる人間の上から目線のエゴなのかも知れない。

だけど───それも、本心なんだ。











「って、こういうヤツだからさ。いくら誰が俺の傍に来ても、無理なんだわ。」











「ちょっと、ユノ!誰に言って…」










さっきから抗議してみるも、それはいとも簡単に覆される。











「うるせぇよな。でも、世界一可愛いからしょうがない。」












そう言って、通話を切った───








あと数話で終わるかと…


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