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2018.10.13 (Sat)
いよいよ限界に来ていた

薄く張られた氷の上を歩くような
張った細い糸にぶら下がっているような

まさにそんな感覚だった───


Signal.1


Y
ドアを開ける事を一瞬だけ躊躇う。
一歩入ってしまえば全てを隠し、いわゆる「いつもの自分」でいなければならない。

明け方まで抱いていた女の匂いを消し、爽やかな「ユノ」に───


一度空気を飲み込み思い切ってリビングのドアを開けた。
入った瞬間にコーヒーのいい香りが鼻を掠めた。

「あ、お帰りなさい。コーヒーちょうど入れたとこです、ヒョンも飲みますか?」

朝帰りした兄に何を問うでもなく普段と変わらないチャンミンに、少しだけ安堵して少しだけ落胆もした。


これが現実───


「ああ、貰う。シャワー浴びて来る。俺のは甘くして。」
「了解です。」

真っ新な相手に自分の汚い大人の部分を見せたくはなかった。
毎回のように朝帰りをし、今みたいに慌ててバスルームへ駆け込む。
”何やってんだ”と自問するのはもはや日課になっていた。
勿論、その答えは出ないままに同じ事を繰り返して。

シャワーのコックを思い切り捻った。
目の前の壁に手を付き、うなだれたままで首筋にその熱さを感じながら自分の情けなさを痛感する。
女を抱くのは単に抑えきれない感情を紛らわすため。
人肌を感じている時だけは、少しだけ満たされる気がした。
”気がした”だけで実際満たされるはずなどないのに───

「はぁ、マジ俺何やってんだって話だよな…」

自分の気持ちに気づいたのは正直「いつ」だとは言い切れない。
だが、「いつの間にか」自分の心にはその存在が棲み付いていた。
この世界で頼る相手がいない時に傍にいれば、そりゃあその手に縋りたくなる。
いわゆる俺はチャンミンにとってのそういう存在でしかない。

しかし頭の何処かでは分かっているつもりでも、傍にいれば何かを期待したくなる。
それが日に日に募ってく自分に嫌気が指し、傍を離れた方がいいと思いながらも出来ないその狭間で揺れていた。
男を愛する嗜好はないのに、そんな壁をすっ飛ばして欲しいと思った相手がチャンミンだっただけ。
いっそ男しか愛せず、近くにいて情が移った───そんな在り来たりな現実の方がずっとマシだ。


「ずいぶん長かったですね。」

下にスウェットだけ履いてバスルームから出ると、待ちくたびれたと言うようにチャンミンが近寄って来た。

「一応、朝ごはん作ったんですけど。」
「へぇ。」
「美味しくはないと思うんですけど、食べますか?」

朝飯を作ってくれてこうやって聞かれるのも何度目だろう。
どうしようもない兄の事など放っておけばいいのに、しっかり者の弟は”朝ごはん抜き”が耐えられないんだろう。
いつも「何か口にしてください」と小言みたいに言われる。
あまりベラベラと喋らないチャンミンが、以前よりこうやって距離を縮めて来てくれるのが嬉しかった。
だからこそ後ろめたさを抱えて帰って来てからのチャンミンのこれには、正直毎回どんな顔すればいいのか迷う。
酷く申し訳ない事をしているようで、居たたまれなくなるから。

「…チャンミンのは何でも美味いよ。」
「そんな事言っても豪華なご飯には変わりませんよ。」
「はは。確かに…」
「あ、ヒョン。髪濡れたまま!乾かしますから、ソファに座って下さい。」
「あ?いや、自分でやるから大丈───」
「僕がやりたいんです。ちょっと待っててください。」

そう言われたらそれ以上何も言えなくなって、チャンミンに従うしかない。
大人しくソファに座ると、ドライヤーと何かを手にしたチャンミンが戻って来た。

「はい、着替え。そんな格好じゃ風邪引きますから。」

そう言って目の前に出されたTシャツ。

「あ、…りがと。」
「いいえ。じゃあ、乾かしますね。」

勘違いするな。
これは、家族に対するそれであって「特別」なんかじゃない───

自分の頭に触れるチャンミンの指の感触だけで、自分の中に熱が燻ぶるのが分かる。
それをついさっきと言えるくらいまで吐き出して来たと言うのに一体俺は───

「ヒョンは頭ちっさいですよね。」
「そうかな?そんな事ないけど。」
「だから、僕は隣に並んで写真に映るのがちょっと嫌です。はい、前髪も…」

俺の目の前に回ったチャンミンの腰が前触れもなく視界に入り、思わず目を伏せた。

その身体を思い切り抱きしめたくなる
有無を言わさぬままにその唇を俺のそれで塞ぎ俺に縋らせたい

込み上げて来る衝動を必死に握り締めて、飲み込んだ。

「んまいじゃん。」
「そうですか?何かチゲって難しいんですよ、簡単そうに見えて。」
「あー、そうかもね。俺は料理しないから良く分かんないけど。」
「見よう見まねで…」
「器用だよな、お前は。」
「少しずつレパートリー増やして行けたらいいなと思って。勿論、ヒョンが一番に味見して下さいね。」
「…毒味の間違いだろ。」
「あっ、ひどい。」

髪をされるがままに乾かして貰い、チャンミンが作った朝飯を食べる。

「今日、何時だっけ。」
「マネージャーが8時半に迎えに来るって言ってました。」

これだけ見たら愛に溢れた普通の光景のように見える。
ずっとこのたおやかな時間が続けばいいと、そう願わずにはいられないほど眩しく。



だけどそれは実は酷く脆いもの───


チャンミンを傷つける時が、もしもその時が来たら。


自分から手を放す覚悟は出来ている───




to next.




新しいお話始めます。
時系列は7th.より前です。
最後までお付き合い宜しくお願いします꒡̈⃝✰︎


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2018.10.16 (Tue)
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C
いつもと変わらない。
変わらないはずが、距離があるように感じる。

最初は思い過ごしかと思った。
性格も真反対なら生活スタイルも違う。
そんな2人が一緒に暮らしていたら、会わない時間があってもおかしくない。
でも、さすがにこうも朝帰りが続くと避けられてるのかとも思ってしまう。
一緒に居るのが苦痛に思われているのかも、とさえ。

普段は変わらなく接して来るから、正直どうなのか分からない───

「ヒョン。」
「ん?」
「今夜はこれで終わりですよね。」
「そうだね。」
「何か作るので、一緒に食べませんか?」

作ると言っても特別レパートリーなどある訳でもなく。
ただヒョンと一緒に食べたいと思い口をついて出た。
どんな料理でも、ヒョンが「美味しい」と言ってくれるのが嬉しい。
その言葉、その時の笑顔を見れるから、そういうのも料理を始めた理由に含まれた。

「作るの面倒だろ。」
「大丈夫です。そんな凝ったの作れないから。」
「はは。」

それには返事らしい返事はなく、ただ笑顔を返されただけだった。
一緒に食べてもいいのかそうじゃないのか曖昧で、何だかまた宙ぶらりんになる。
もっと、こうしたい、ああしたいって素直に言えない自分の性格が嫌になる。
2人になってだいぶヒョンとの距離感を掴めてきた気がしていたが、実際はなかなか他の後輩たちがするようには出来ないでいた。
ユノヒョンにとって僕は、あまり「可愛気のある」存在ではないのかも知れない。

「ちょっと事務所寄るぞ。」

マネージャーの声で我に返る。
ふとヒョンに目を移すと、窓に手を付いたままで外を眺めている───ようにしか見えない。

もしかしたら、僕には言えない悩みがあるんじゃないだろうかと不安も過る。
僕がまだまだ頼りないから、僕でない誰かに救いを求めているとか。
だとしたら、自分はヒョンの傍にいるのにメンバーとしては失格だなとそんな風にも思えた。
”兄”のような存在であっても、一つのグループを背負ってくメンバーが悩んで苦しんでいる時に支えてやれないなんて。
傍にいる意味さえなくなってしまう気がした。
どこまでも「手がかかる」存在、それも付け加えられたような気がして自分で自分に傷つく。

「あの、ヒョン…」
「ん?」
「何か悩んでる事とか、ありませんか?」

だから、少しでも話して欲しい。
頼りないかも知れないが、一緒に前を向いて進んで行くと決めた。
この関係がずっと続いて行くのだから、辛い事は分かち合って行きたい。

「──、…ないよ。」

やっぱりそんな自分の思いは軽く空(くう)を滑って行く。

その少しの”間”に何か意味があるような気がしたが、それを改めて聞けもしなかった───


---


事務所に着くと思いがけず、後輩たちも来ていて久しぶりに会う事が出来た。

「ユノヒョン!」

そして、躊躇う事なくヒョンの名前を呼んで抱き着いて来る可愛い後輩。

「おー、テミナ。久しぶりだな。」
「本当に。まさか会えるとは思ってなかったんで、嬉しいです。」

テミンはユノが特に可愛がっている後輩だ。
ダンスも上手く、天使のようで堕天使のような魅力も持ち合わせていて。
誰もが彼の魅力の虜になる───
そういう自分もご多分に漏れず、その1人である事は誰にも言ってない。
彼に対して黒い感情がある訳ではなく、素直に「羨ましい」だけだ。
自然に振る舞える、そういう彼が。

「チャミニヒョン。」
「わぁ、ミノヤ。元気してた?」
「って、昨日も電話で話しましたよ。」
「あ、そっか。」

そんな自分がヒョンになり懐いてくれる後輩もいる。
ミノはテミンと同じグループだ。
僕を含め数人で”オタク”の集まりのようなグループを作っている。
良く電話もするし、良く食事にも行く仲だ。

「どうしたの、今日は。」
「新曲のダンスの練習で。」
「あぁ、そうなんだ。いい感じ?」
「そうですね、頑張ってはいます。」
「”は”って。」
「チャミニヒョン~。」

甘えたようにミノが抱き着いて来るから、思わず抱きしめ返す。
自分の弟みたいで、本当に可愛くて仕方がない。


ふと視線を上げると、


ユノヒョンと目が合った。


そして、それはすぐに逸らされる。


「っ。」




ヒョンがテミンを抱きしめて、頭を撫でた───




次の瞬間、胸の奥に言葉で表現出来ない鈍い痛みが走る。


それは目を逸らされたからか、テミンへの仕草からなのか。

どちらかは分からない。


でも、何故か酷く痛い───


「っ、ヒョン?苦しい。」
「あ、ごめん。」

無意識にミノを抱きしめる腕に力が入っていたらしい。

何だろう、この変な感じは。
でも、これだけは分かるような気がした。

そうだとはっきり聞いた訳ではないが、自分を避けるように部屋を出て行き。
目を背けられたのも、正直これが初めてではなかった。

つまりは、自分に対してはそんな風な態度しか取って来ない人が。

僕でない相手にはいくらでもその相好を崩す───

そう思った瞬間に自分を嫌なオーラが覆って行く。
後輩達には何の罪もない。
それなのに、彼らのせいにしてしまいたくなるほど。

態度があからさまに違いすぎて。
同じグループだから適当にあしらわれてるんだろうか。
違う、ヒョンはそんな真似はしない。
普段は″普通″なんだ。
しかし、感じる違和感が余計に広がって行く。

────だったら何で。

ヒョンに着いて行こうと必死に頑張って来た。
散々叩かれたダンスも、ヒョンの足でまといにだけはならないようにと必死に。
今、この場所にいることを誰かのせいにしたりするつもりはない。
自分自身で選んだ事だった。

でも、誰よりヒョンに構ってもらうべきは他でもない自分だと思っていた。

それは自分の驕りだったのか───





その日もヒョンは夜中に出て行き、帰って来なかった。



to next.



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2018.10.17 (Wed)
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Y
久しぶりに誘われ、違うグループだが同じ事務所の先輩後輩メンバーと飲みに出た。
それぞれが世界を股にかけて活動していると言ってもいい身分で、こんな風に集まれるのは貴重だ。

「よぉ、ユノ。」
「シウォン、久しぶり。」
「あれ?お前の片割れは?」
「片割れって…。チャンミンは今日は別行動で、もうすぐ着くはずだけど。」

噂をすれば何とやらで、ちょうどチャンミンが顔を見せた。
人見知りは変わってないが、実際先輩にも可愛がられているし後輩にも慕われている。
それを表すかのように、チャンミンの周りには後輩がまとわりついている。

そんな後輩達を諌めながら、こちらに歩いて来るのが見えた。

「ヒョン、すみません遅れて。」

当たり前みたいにして隣に座った。
チャンミンの香りが鼻を掠める。
わざとらしく付けられたキツいそれとは全く違う匂い。

「いや、俺もさっき来たとこだし。」
「そうなんですね。」
「チャンミナァ、俺は寂しいぞ。ユノしか目に入ってないんだろ。」
「シウォ二ヒョン。…ヒョンにも会いたかったですよ。」
「″も″ってなんだよぉ。ユノとは毎日一緒にいてまだ会いたいのか?」
「そうですね、いないと寂しいですよ。ですよね?ヒョン。」

覗き込むように聞かれ言葉に詰まった。
邪推のない目で見つめられると全てを見透かされそうで、目を逸らした。
2人になって暫くはリーダーとマンネの感覚が取れず何処か堅苦しい感じだったのに、今は違う。
口調もだが、明らかに俺を見る目に緊張感が緩くなった。
それは喜ぶべきなのに、喜べない───

「ヒョン、ちょっと後輩達のところに行ってもいいですか?」
「俺に聞かなくてもいいから。」
「じゃあ、シウォ二ヒョン僕あっちに行きます。」
「チャンミナ冷たいなぁ。寂しいぞヒョンは。」
「すみません。ユノヒョンにあまり飲ませないで下さいよ。」
「出来た嫁だな、チャンミンは。」
「嫁って何ですか、嫁って。あ、ユノヒョン!一緒に帰りましょうね。」

テーブルを移ると、チャンミンはあっと言う間に後輩達に囲まれた。
ああ言うチャンミンを見るとほっとするのも事実だ。
純粋に、あの辛かった時期を脱してまた笑顔を見せてくれる───それがどれだけ幸せなことなのか。

「チャンミンがあまりにも自然すぎて、お前も苦労するな。」
「シウォナ。」

シウォンとドンへは俺の気持ちを知っている。
知っていて何をするでもなく、温かく見守ってくれている。
それがどんなに有難く心強いか───
話せる相手がいなければ俺は、とうの昔に爆発していたかも知れない。

「おーおー、後輩にも大人気だねチャンミンは。」
「面倒見がいいからな。」
「それはお前もだろ。て言うか、大丈夫なのか?」
「何が。」
「まぁ、色々。」

″色々″に含まれる多くのこと。
こうやって心配されるっていいなと、毎回この瞬間に思う。
この世界で一緒に苦楽を共にして来た大切な仲間───

「…大丈夫。」
「しかし、チャンミンがあんなに純粋じゃなぁ。」
「それがアイツのいいとこだろ。」
「そうかも知れんが、いつも一緒ってのはこういう時厄介だよな。」
「…そうだな。」

確かにそうかも知れない。
厄介で酷く面倒くさくて───
だけど、それがチャンミンの傍にいる為だったらこのグレーな気持ちを隠す事は難しくない。
今は、───まだ。


---


「ヒョン、僕飲みすぎました。…眠い。」

そう言いながら抱きついてくる自分とさほど変わらない大きさの身体を支え、宿舎に戻った。
俺はと言えば、チャンミンに言われたからではないがさほど飲めもせず。
酔っ払って絡んで来るシウォンの横で全くと言うほど、頭は冴えていた。

「ったく、俺には飲むなって言うくせに。お前はどうなんだよ。」

今にも崩れ落ちそうなチャンミンの身体を抱き抱えるようにして、やっとの思いで玄関を開け身体を入れると、足元がおぼつかず脱いだ靴が散らばる。

「あっ、ヒョン。靴…ちゃんと揃えろって、」
「あー、はいはい。お前を運んだらちゃんと揃えとくから。」
「んもう、ヒョンはぁ…」
「もう黙ってろお前は。」
「何でですか、僕は、ヒョンのために…」
「はいはい。」

引きずるようにしてチャンミンの部屋に連れて行き、最後の力でベッドに抱え上げる。
首が苦しくないようにシャツのボタンを外し、ジーンズを何とか脱がせる。

「窮屈だから脱がすぞ。」
「えー、自分でやるから、ヒョン…大丈夫ですってば、」

じたばたと抵抗していたが、力で俺に適うはずもないと諦めたのか最後は大人しくなった。

「ったく。」
「ありがとうございまぁす…」
「明日、ちゃんと起きろよ。」
「わーかって、ますって…」

そのままブランケットを手繰り寄せ、デカい身体を小さく丸めてすぐに寝息を立て始めた。

「マジで勘弁しろよな。」

あまりにも無防備なチャンミンに苛立ちさえ覚える。
自分もベッドサイドに腰を下ろし、頭を抱えた。
苛立ちなんて、自分の身勝手な思いがそうさせるものでチャンミンには当たり前だが何の非もない。
ただ、そんな風に誰かを責めていないと自分が持たないから───

横たわるチャンミンに目をやると変わらず規則正しい呼吸を繰り返している。

暗く落とされたライトに照らされるその身体───



もやりと灰色の煙が揺れた気がした。



「っクソ…」

自分自信に嫌気が指してくる。

何て俗物的なのか───

そんな風にしか見れない自分は傍にいる資格などない。
この先も満たされることのない想い。

全てを振り払うようにして立ち上がった。

燻る熱は吐き出してしまわなければ。
それをそのままにしておけば、結果チャンミンを傷付ける最悪の結果になってしまう。

───最愛の人を。

だから今夜もお前の傍にはいられない。











「ユノヒョン?」








名前を呼ぶその声に、俺の身体は凍りついたように動かない。


悟られちゃいけない。
″何を″じゃなく″全て″を。
だから務めて明るめの声で返事をする。

「わり、起こしたか?」

しかし、振り返ってチャンミンの表情を見るのが怖かった。
だから、チャンミンには背を向けたままで───

「あの、…すみません…」
「何が?」
「迷惑かけちゃって…」
「気にしなくていいから。おやす───」

早く傍を離れないと───

ドアノブを引いた。








「ヒョンは、僕が嫌いなんですか?」








思ってもみなかった言葉にたまらず振り向く。

「何言ってんの?チャンミン…」
「だって、今も″勘弁″て…」

聞かれてた───
違う、そうじゃない。
あれば自分の情けなさに対しての言葉だ。
決してチャンミンに向けてのものじゃない。

「いや、あれは違うから。」
「…本当は、ヒョンと残ったのが僕で…ガッカリしてるんですよね?」
「は?ちょ、」

そんな訳があるはずがない。
俺は隣にいてくれるのがチャンミンで良かったと心から思っている。
むしろ自分の方が罪悪感に悩まされているくらいだ。
手を放そうと思えば出来たのに、そうしなかった…出来なかったのは紛れもなく自分の方だった。

「…違うよ、チャンミン。お前酔ってんだろ?明日、またゆっくり話そう。」

チャンミンには、違った未来が開けたかも知れないのに。
そう、分かっていながら───。



「だったら!何でヒョンは僕からいつも目を逸らすんですか───」
「──…っ。」
「…それに、いつも朝帰りで。だ、誰といるか聞くつもりはないですけど、僕と顔を合わせるのが嫌で避けてるんでしょ。」


ああ、と思う。

気付かれていた───

ことある事にチャンミンを直視出来ずにいたこと。

でも、それはチャンミンを嫌いだからじゃない。

夜一緒にいないことも。

逆だ───

俺はお前が好きでどうしようもない。

「…それは、お前の思い違いだよ。チャンミンはこんな足りない俺に着いて来てくれた。頼りになる″弟″だ。嫌いな訳ないだろ。」
「ヒョン…」
「また明日話そう。」
「…じゃあ!僕を抱きしめて下さい。他の後輩達にするみたいに。」
「っ。」
「出来ない?テミンには出来るの…に?」

今にも泣きそうなチャンミンに言葉が詰まる。
あの頃よりだいぶ強くなったと思ってた。
笑顔も多くなって来て、外に目を向けられるようになって。

でも、それはまだまだ脆いものだった───

こんな人にどうやって自分の気持ちを伝えられると言うんだ。

やっぱり無理だった。
最初から分かってたことなのに。
改めて現実を突きつけられる。

「ったく、いつまでも甘えんぼだよな。うちの…マンネは。」

ゆっくりとその身体を抱きしめた。
躊躇うことなく背中に回る細い腕に泣きたい衝動に駆られる───

「ヒョン。…僕を1人にしないで下さい。」
「馬鹿だな、する訳ないだろ。」



もう、───限界だよ



to next.



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2018.10.23 (Tue)
夢を見た

泣きたいと思うほど涙は嘘みたいに乾いていき

そんな僕にあなたは悲し気に眉を下げ

───何も言わず僕の傍を離れて行った


Signal.4


C
「──、…っ。」

苦しさで一気に覚醒する。
思わず目を開け、詰めていた息を何とか吐き出すと。
雁字搦めになっていた呪縛から解かれたように、身体が軽くなった。

「は。…夢だった…。」

嫌な夢だった。
その証拠に身体はじっとりと汗が滲んでいた。

「うー、頭いて…。」

ベッドに胡坐をかいたままで頭を抱えていると、じわじわと昨夜の記憶が蘇って来た。

『…じゃあ!僕を抱きしめて下さい。他の後輩達にするみたいに。』
『出来ない?テミンには出来るの…に?』

後悔しても遅い、口にしてしまった言葉はもう戻せない。

「…あれじゃ、まるで嫉妬してるみたいじゃないか…後輩たちに。」

今になって恥ずかしさが込み上げて来る。
酒の力は恐ろしい。
普段思っていても口に出せない事を、いとも簡単に相手に伝える事が出来る。
それは一方通行かも、と言う迷いもなく勢いのままに。

しかし自分の言った言葉は思い出せるのに、その時のヒョンの表情が思い出せない。
笑っていたような、そうでもなかったような。

でも、確かに自分はその腕の中にいた───

「っ。」

その時鳴りだした携帯。
画面に映る時間はもうすぐ8時になるところだった。
そして、着信の相手はマネージャー。

「もしもし。」
『あ、チャンミナ起きれたのか?』
「目が覚めたんです、たまたま。」
『なら良かった。ユノが心配してたからな。』
「…ヒョンが?」
「昨日、夜中だったけど電話が来て明日の朝お前を起こしてやれって。」
「……。」

その言葉にスマホを握ったままベッドを飛び降りた。
勢いよくドアを開け、通路を抜けヒョンの部屋へ向かう。


もしかして───


ドアの前で一瞬躊躇ったあと、ゆっくりとドアを開けた。











『おい、おーい、チャンミナ!こら!』

下がったままの腕の下で、マネージャーの声が響いてるのが聞こえる。

主のいない部屋は妙に整頓されていて。
それがまた余計に自分の心を騒がしくさせた。

「また──…」

確かに自分を抱きしめた感覚は残っているのに。
まるでそれは嘘だと言わんばかりに突き付けられる現実。

理由が分からなくて混乱する。
昨夜のように温もりを求めれば答えてくれ、泣きたいくらい優しく返されるのに。

なぜ、自分はこんなに動揺していて。
何に、自分はこんなに焦っているんだろう。


また置いて行かれる───

『こらぁ!チャンミナ!聞けっ!』

あの時に感じた変な感覚が自分を包む。
深い底へ引きずり込まれるような。

「…マネヒョン。」
『あ?お前は、ちゃんと電話に出ろよ!ったく…』
「マネヒョン…」
『ああ?だから何だよ。』
「ユノ、ヒョンが…また帰って来ませんでした。」
『───、っ…あれだ、ユノは別にスタジオ向かうから。』
「…答えになってない。」
『チャンミナ。あのな、』
「僕は。また、───置いて行かれるんですか。」
『は?いや、そうじゃなくてな、』

会話の途中で堪らず電話を切った。

どうしようもなく混乱する自分の心が、ぎしりぎしりと音を立てて軋む。
同時に疼いてくる痛みに胸を押さえた。


毎朝目が覚めてあのひとが傍にいないことも。

後輩たちを可愛がることも。

僕から目を背けることも。

”抱きしめて”と言えば抱きしめてくれることも。

僕から離れることも。


───何が正解で何が正解じゃないんだろう


---


スタジオに入って行くと、すでにヒョンは到着していて中でスタッフと何かを談笑していた。

あのひとは普段通り、何も変わらない。

それなのに、なぜか自分ばかりが色々と考え悩んでいるように思えて。
自分自身が可哀想で堪らなくて、情けなさで潰れてしまいそうになる。
ヒョンが明確な「答え」をくれたなら、それならばこんなに苦しまなくてすむのに。

でも、「答え」を貰うための「問題」って一体なに───

「ああ、もう。分からない…」

スタッフに挨拶をしたあと、壁に寄り掛かったままユノを見ていた。

本当に何一つ変わらない。

本人の中にある一本のラインは昔から真っすぐ引かれたままで。
勿論、外見にしても同姓から見てもとても惹かれる容姿をしていると思う。
自分がここで仕事をしているような華奢な女性であったなら、勿論ヒョンに惹かれないはずがない。
ヒョンがいるだけで空気が変わる。
周りの目が、───ヒョンに集まる。

「…っつぅ。」

またあの鈍い痛みが走った。

「チャンミナ。」

胸をさすっていると、ユノがこちらへ歩いて来る。
やっぱり変わらない笑みを浮かべながら。

その顔を見て、昨晩の事が急に蘇った。
子供みたいに、ヒョンに強請ったことを。

「っ。…ヒョン。」

気まずさから顔を上げられないでいると。

「どした?」
「っ。」

思いがけずヒョンの顔が下から覗いた。

「いや、…何でもないです。」
「そうか?今日の撮影のコンセプトとか聞いてる?」
「ああ、さっきちらっと説明があったんで。」
「そっか。じゃあ、衣装着替えに行こう。」
「え?あ、はい。」

くしゃりと頭を撫でられた。
こういうことはさらりとしてくるのに、時々目を逸らされたりするのも実際感じていて。

「また…」
「ん?」
「いえ、何でも。」
「そう?」

なのに、それを誤魔化すように笑顔で返した。







流れるように聞こえるシャッター音。

2人の距離はゼロに近いほど近づいて、その端正な小さい顔がすぐ傍にあった。
何度もこんな撮影をして来てあの頃よりは慣れたとは言え、やっぱり間近で見るヒョンの美しさには息を詰めずにはいられない。

「チャンミナ、どうかした?」

微妙な緊張がヒョンに伝わってしまったらしく、互いに分かる程度で声をかけられる。
その間にも、2人前を向いたままでカメラ目線は外さずに。

「…何でもないです。」
「ふぅん。」
「ただ。」
「ただ?」
「ヒョンって格好いいなって、そう思っただけ。」

本音を言ったところにカメラマンの指示が飛んで来た。

”チャンミン、後ろ向いて。そう、ユノの肩に手をかけて何か耳元で囁くように”

カメラマンからのそんな指示が入る。

「俺、格好良くないけどね。」
「ヒョン?」

職業病なのか、喋りながらでも指示通りに2人して動く事が出来る。
規則的とも言えるシャッター音に合わせてポーズを取った。

「あの。」
「ん?」

”次、向かい合って”

何の躊躇いもなくヒョンは僕の方を向いた。

合う──、視線。

一瞬躊躇したのを見透かされたのか、ヒョンがやんわりと口元を上げ笑う。

「あ、合う…」
「なに。」

いつも逸らされていた視線がばっちりと合っている。
それは何でだろう。
余裕の笑顔さえ見せて。

「目が…」

また分からなくなって来た───

聞いてみてもいいんだろうか。
ずっと聞けなかったことを。
沢山聞きたいことがあるが、その中で1番気になっていて特に聞いてみたいことを。

”キスするみたいに顔を寄せてくれる”

その言葉と同時と言えるくらいの速さで、ぐっとその小さい顔が近づいた。

「っ。」

瞬間、空気を飲み込んだ。
形のいいその唇に吸い寄せられるように、目が離せない。

今しか聞けないかも知れない。
変な言い訳が自分の背中を押した───


「ヒョン、夜──…、いつもどこに行ってるんですか。」


ヒョンは一瞬だけその瞳を大きくした後、哀し気に目を伏せた。


また逸らされる───


「恋人んとこ。」











ああ───

やっと気づいた。
欲しいと思っていた「答え」の「問題」。




僕が嫌いなんですか

じゃ、なく。

好きなひとがいるんですか

だと、思う。






最近何度も感じた痛み。




それが答え、なんだろうか───



to.next.



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Signal .5

2018.10.25 (Thu)
まだ大丈夫

そんな言葉でどうにか何とか保っていたかった

ずっと傍にいたかったから


Signal.5


Y
「ユノ、本当にいいのか。」

広い車内、しんと静まった中にマネージャーの声が重く響いた。

何度尋ねられても頷くしかなかった。

どうにかしたかった。
でも、出来なかった。

いや、これから出来るかも知れない。
でも、どうにもならないかも知れない。

そんな風に迷いながら時間が経っていくのが酷く無駄な気がして。

自分さえ割り切ってしまえば、実はとても簡単な事なんじゃないかと。

何よりそれに縋りつきたいと思っている自分を、他でもないチャンミンには気付かれたくなかった。

「上には俺から話とくけどな。」
「ありがと。」
「何か、アイツさ…勘が鋭いだろ。お前が夜いないこと、結構気にしてたぞ。」
「ああ…うん。」
「ちゃんと話せばいいじゃないか。」

話す───

「弟」や「メンバー」としてではなくチャンミンを想っている

「言わないよ、…負担になりたくないから。」
「負担?」
「そう、俺の立場でそんな事口にしたらアイツは”どうしたらいい”って真面目に悩むに違いないし。本当はそんな気がないのに、俺から言われた事で変にいい返事貰ったとしても嬉しくない。何より、アイツをそんなどうでもいい事で悩ませたくねぇから。」
「お前の気持ちは、どうでもいい事なのか?」

どうでもいい事───

「そう、なりたくねぇから…。言わない。」

今、上手く回り始めているこの関係を崩すことは正直怖い。
やっと前より距離を縮めて近づいてくれたことも、順調に動いてるグループのメンバーとしても。

「俺が悪いから。」
「あ?何だそれは。」
「俺が、…好きになったのが悪い。」

そう、だから───離れる。

「はぁ。ったく。じゃあ、チャンミンにはせめてお前から話してやれ。」
「分ってるよ。」
「ちゃんと納得するように話してやれ。…っても、核心には触れられないんだから中々無理だろうがな。」
「ああ。でも、出来る限りちゃんと話すから。」
「分かった。部屋はこっちで探しとくから。候補を幾つかお前に見て貰って、早急に手続きする。」
「うん、ヒョン…いつもありがと。」
「いいよ。それが俺の仕事だ。お前らが仕事しやすいようにしてやるのが、な。」

そう言いながら忙しそうに電話をかけるヒョンに手を降って、1人車を見送った。

部屋までの距離が長く感じられる。

チャンミンは先に仕事を終えてもううちに戻っているはずだ。

あの日、撮影でチャンミンから夜中に何処に行ってるんだと問われた時。

実は一瞬、期待した自分もいた───

もしかして、自分と同じ気持ちからの「嫉妬」までは行かずともそれに似た感情なのかとも。

『恋人のところ。』

だが、そんな風に答えるしかなかった俺にチャンミンはただ一言。

『そうですか。』

そう言っただけだった。

それ以上でもそれ以下でもなく、その後何かが変わったでもなく。
結果、その俺の浅ましいようなちっぽけな期待は呆気なく崩れる事となった。

なにひとつ期待も出来ないような想いは、自分で消化するしかない。

「はぁ。」

無意識に零れる溜息。
重たい脚を引きずるようにして部屋へ向かった。


---


ドアを開ける前に呼吸を整え気持ちを切り替える。
なるべく重たい口調にならないように、平静を装ってリビングのドアを開けた。

「ただいま。」
「あ、お帰りなさい。」

当たり前みたいに返される返事に、心が絞られたみたいに痛い。

「まだ、起きてたのか。」
「…はい。だって、まだ日付超えてないですし。これくらいは普通です。」
「まぁ、そうだけど。何してたの。」
「本読んでました。」
「そっか。」

そう言いながら小説に目を落とすチャンミンは普段と変わらない、そう──だから。

今、言うべきだ。

「あのさ、チャンミナ。…話、あるんだけど。」
「───話?」

一瞬間があったあと、ゆっくりと視線を上げ俺と合わせた。
ソファに身体を伸ばしていたのを、わざわざ座りなおしたチャンミンの真面目さに少しだけ気持ちが和らぐ。

結果、何やっても何一つ取ってみても自分にはその存在は全てで「愛しい」んだと。

それが後押しをする、───ここに来ても迷っていた自分を。

「なん、ですか。」
「あんまり、深く考えないで欲しいんだけど。」
「…はい。」
「俺、1人暮らししたいんだよね。」
「え───。」

性格も全てが違い過ぎる2人だから、一緒に住んでいても合わないところも実際あった。
それで小さい口喧嘩みたいなものもしたこともあった、だからすんなり何も言わず”OK”出すだろうと思っていたのに。
そんな風に大きな目をさらに丸くして驚いてくれる。
それは自分勝手だと言われてもいいから、少しだけ己惚れてもいいだろうか。
「兄」として「同じグループのメンバー」として。

「ほら、俺とお前色々違いすぎるし。」
「ヒョン?」
「チャンミンは1人の時間も大切だろ。でも、離れて暮らしたからって何かが今と変わる訳じゃな──」

何かが変わってしまわない為に、俺はお前から離れたい。

眠るお前に触れたいと思ってる、そんな感情を持ってる俺が傍にいれるはずもない。

何よりそんな俺に気づいてお前が、苦しむ前に。


「───彼女、…恋人と一緒に過ごしたいからですか?」


「は。」


それなのに、チャンミンの口から零れた一言は俺の感情をいとも簡単にぐちゃぐちゃにする。


「僕がいると、邪魔だから…」
「何言ってる、そうじゃない。」


違う───


「ヒョンは、どうせ出て行くじゃないですか…いつも、その人のところに。」
「チャンミナ?」
「…そっちでも会って、うちでも会いたい、…そういう事ですか。だから僕は邪魔なんですよね。」
「ちょっと、チャンミン。俺の話ちゃんと聞いて───」
「っ、ちゃんと聞いてるから、そう言ってるんです。僕は、また置いて行かれるんでしょう?」
「落ち着け、なぁ、チャンミナ。もっと冷静に話したいんだよ、だから。」

立ち上がったチャンミンの腕を反射的に掴んだ。
そして、それはすぐに振り払われる。

その仕草に胸を抉られるような痛みが走る───

なのに、それでも俺はその手を再び掴んで引き寄せることが出来ない。

「だったら、もっと早く言って欲しかった…。僕が”何でだろう”ってそう思う前に。」
「チャンミナ、俺を見て。」
「”何で夜中に出て行ってしまうの”って。”何で僕から目を逸らすの”って。”何で僕以外の人には優しくするんだ”って。」
「おい。」
「そう僕が思う前に!どうせ、置いて行かれるならその方がまだマシだった…」

違う───

「1人にしないって言ったのに。」

するはずがない。
俺はいつだってお前の傍にいる、いたいんだ。

だからその為なら、物理的な距離はそんなに重要じゃないと思った。

「…僕は。ヒョンを困らせたくないんです。」
「チャンミン。」

お前を抱きしめたいよ。

そして、俺の全てで溶けるほどチャンミンを愛してやりたい。


やっと俺の方を向いたチャンミンは、

泣いていた───

あの時に見た以来の涙だった。


「だから、…ヒョンの言う通りに、します───」



to next.



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Category: Signal | Comment(0)
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